スケートボード 路上の言語

ESSAY

路上の言語〜ストリート・スケートの起源『棒馬としてのプール』8

泳ぐための施設、生活するための建築物はスケートボードのために使われた。スケートボードの文化的影響が勝ったため、波とプール、プールと建築物の境界がまたがれたのだ。

概念の境界

さて、ゴンブリッチが

棒が馬としての役を演ずることができたわけである。そうであるとすれば、われわれは普通には閉じて封鎖されていると見なされている境界を越えることもできよう。

引用:E.H.ゴンブリッチ『棒馬 あるいは芸術形式の根源についての考察P18

と述べているこの境界こそが、ABとして使うときにまたぐ概念の境界である。その境界を越えるには抽象の力が必要であり、その力が発揮されたとき境界はまたがれ、Aは新しい使われ方を得ると同時にその概念には新しい文化が宿る。

 

棒のように単純なものは馬になるだけでなく、別の背景のもとでは剣や魔女のまたがる箒にもなることができる。

「抽象」という見地からすれば、一つの形に対してそのように多くの意味が集中するのは大きな難問をもたらすことになるが、意味の心理的な投射という見地から見れば、それはもっと容易に理解しうるものとなる。~略~芸術の分野では、隣接する多くのアメリカインディアン部族の好みの模様である同じ三角形が、その当の人々の主要な関心ごとを反映して、さまざまな意味を与えられているということが明らかにされている。

引用:E.H.ゴンブリッチ『棒馬 あるいは芸術形式の根源についての考察P18

 

ゴンブリッチは論文の冒頭で単純な形が様々な意味を持つようになると書いているが、棒を馬と見ることができたような、単純な形態に新しく意味を持たせるようなことは現在では不可能だという。

ところが、最終節で彼は今までの語り口を自分自身で否定するように、どんなプリミティブな形態であっても原始時代と同じ意味を持つことはありえない、たとえピカソでさえ、棒馬がかつてその最初の創作者に対してもっていたのと同じ意味を持つ要にすることは無理だ、と述べるのである。なぜなら、芸術とは鏡の間のようなものであり、あるイメージが芸術として提示された途端、それは新しい関係づけの枠組みを作り出しそこから逃れられなくなるからだ。この鏡の間のなかで、「それぞれの形態は無数の記憶と残像を呼び起こす」のである。

引用:田中純『表象の墓碑銘――ゴンブリッチ「棒馬」考』P29

棒のような単純なものに対して新しい意味を持たせたとしても、それは過去の何かを連想させるものであり、まったく新しい「棒馬」を生み出すことはたとえピカソであろうと不可能なことなのである。

 

芸術の世界では新しく生み出されることは不可能であった「棒馬」はスケートボードの世界で再び駆け出した。過去、お椀のような閉じた円形の内壁のRという「面」に意味を持たせたことなどあっただろうか。

 

人類は初めて陸地で、都市で波の代替物を見つけた。それは「専用につくられたもの」ではなく、ほかの何かのためにつくられたものを利用し代替物としての波を発見したのだ。まず初めにスケートボードはサーファーたちにサーフィンの代替物として受け入れられた。サーファーたちは陸地でサーフボードの代わりとなる道具を手に入れたことにより、都市でサーフィンをやろうとする。つまり都市にサーフィンの概念を持ち込んだのだ。波という象徴を求めた結果サーフィンの概念が都市で生活する際に必要な社会一般的な概念をおおい、プールを抽象化し都市に波を発見した。 ジャン・アルプやジョアン・ミロなどの抽象芸術の要素と曲線により構成され、温暖な気候を現す装飾として生まれた単純な形態のRは、波という新しいイメージを手に入れたのだ。

棒馬こそがさまざまな記憶と残像を招き寄せていたことに気づく。

引用:田中純『表象の墓碑銘――ゴンブリッチ「棒馬」考』P29

 

『棒馬としてのプール』というのは次の意味による。

 

寄せては返す波になったプールはこれ以降スケーターたちにさまざまな記憶――目の前にあるものを与えられた意味とは違う使い方をすることで、自分たちに楽しみを与えてくれる象徴の代替物を手に入れることができたということ――と、残像――Rのフチを求めて階段や手すり、ベンチなど都市にひそんでいるさまざまなプールの「部分」――を招き寄せる存在になる。それはサーフィンをするために波を求めているだけでは見つけられなかったことであり、スケートボードがエアーという独自の動作とともに概念を獲得、確立させ、サーフィンの代替物から脱したことでスケート・スポットという記号になったプールから発展していったことだ。

 

スケーターに無数の記憶を植えつけた「リップ」(プールのフチのこと)は都市の中で残像を見せ、それはやがて「カーブ/carve」と呼ばれるようになる。あるスケーターが縁石でトリックをしたことで、都市にリップの代替物としてカーブと呼ばれる新しいスケート・スポットを提示し新しい関係づけの枠組みが作り出されたのだ。

PROFILE

栗原 啓輔

スケートボード研究家/スケート歴20年 (写真家)

https://twitter.com/kuriharakeisuk

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