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ESSAY, 海外

ゆるゆるポーランド滞在記 – その5「新春!司祭の突撃家庭訪問」

この連載は、東欧の現地事情をニュージェネレーションの声と共にお届けする、ゆるゆるポーランド滞在記である。前回の記事は以下のリンクへジャンプ!

 

ゆるゆるポーランド滞在記 – その4「その落書き、合法につき」

家に司祭がやってきた!

「10分後に家に司祭が来るけど、どうする?」

 

ハウスメイトからの突然の問いかけ。
こんな問いかけ、英会話のテキストじゃ勉強できないな…という感想はさておき、どうするも何も、何故部屋に司祭がくるのかわからず、返答ができない。

 

混乱を見越してか、ポーランドの伝統的な出来事だから、あなたは絶対に気にいるわ、と、彼女からの勧めで部屋で待つことになった。
疑問ばかりが噴出するが、詳しいことは後で説明するからと、おいてきぼりで10分後。

 

ポーランド コレンダ キリスト教

本当にやってくる司祭。ポーランドすごい。

十字を切って、手を合わせる

入ってくるなり「どこの部屋か?」と問われ、ハウスメイト達が好意の上でニヤニヤと私の部屋を指差す。
あれよあれよと部屋になだれ込む司祭と二人の侍者。ハウスメイトも部屋に集結し、皆が集まったところで司祭の動きに合わせて全員が十字を切り始める。

 

そんなの聞いてないぞ!と、思いつつも、クリスチャンでも無いのに十字を切るのは変だと、直立不動で自体を見守る。

 

実際、普段はキッチンで酔っ払いながら馬鹿騒ぎをする友人達が、当然とばかりに一斉に十字を切る光景は、かなり、インパクトがある。
彼らもキリスト教徒であったか!と再確認すると同時に、さすが国民9割信者を自称するだけある…と、改めて拍手を送りそうにもなる。

 

だが冗談ばかりでなく、この瞬間に感じた感情を、何と例えるかは難しくもある。
日本人が神社で柏手をうつ光景に、おぉ、と感嘆する訪日観光客をしばしば見かけるが、恐らく彼らと同じものを、私はこの時に感じていたのだと思う。

 

実は、この光景を見た瞬間に、ちょっとばかりの恐怖があった。
脳から信号が送られるのを、ビリビリと感じることができた。
それは自分とは別の文化に対峙した瞬間の、警戒心の現れとも、言い換えられるように思えた。

 

司祭の言葉を拝聴する中、ある友人は両手を組み合わせ、司祭は手のひらを合わせていたように思い出された。キリスト教徒でない私は、作法を何もわからない。
だがこのままというわけにもいかず、思わず両手を合わせて見たが、どうにもその姿が「南無阿弥陀」と仏様へ手を合わせているように感じられ、なぜ手のひらを合わせているだけなのに、これだけの違いがあるのかと、私はぎこちなく手を離してしまった。

クリスチャンのあるあるネタ?

話が終わると同時に、侍者の二人が金色の棒を司祭へと手渡す。彼らは小学生ぐらいの小さな男の子だ。
司祭がそれを、三、四と振りかざすと、水滴が周囲に飛び散る。
降りかかった聖水に思わず体が飛びのいた。これが聖水というものか!
私のリアクションに司祭も笑う。何となく緊張がやわらぎ、隠れた悪魔が聖水に負けて、体から現れはせぬかと、くだぬ心配すら浮かんだ。

 

ここまで、儀式自体は3分もしないままに終わった。

 

ハウスメイトに、聖水の際の心境を話すと、
「私も、聖水がかかったところから火が出て、全身浄化されるかと思ったわ、あっはっは!」
と笑いで返された。

 

また、なんちゃってクリスチャンである別の友人には、
「ぶっかけは聖水だったら安全だね!」との、ド下ネタを吐かれた。
彼は本当に浄化されたほうがいい。

 

もしや、聖水にまつわるジョークは、キリスト教徒のあるあるネタなのであろうか…。

冗談はさておき…

さて、この儀式について真剣に解説をしよう。
この行事、ポーランド語では「Kolęda – コレンダ」と呼ばれている。
古くから続く伝統的な行事であり、簡単に言えば「新年、司祭の突撃家庭訪問」である。

 

音声はポーランド語だが、この動画でコレンダの様子を見ることができる。

 

年が明けると同時に、司祭は決められた教区にある家庭を一つずつ巡り始める。
一応、何日にどの区画に司祭がくるのかは告知されているようだ。

 

そして、司祭によって祝福をうけた家族は、簡単な対話を行う。
これには、信者の健康状態や家庭内での問題を調査し、教会と信者との関係をより円滑にするための目的があるようだ。まさに家庭訪問である。

 

現在では簡略化が進み、儀式から対話を合わせても、司祭の滞在は10分にも満たない。
しかし、かつては一つの家庭に対して、30分から一時間ほどの時間をかけて行っていた。
今ほど訪問する家庭が多くなかったということもあるだろうが、祝福をされる側も、食事や飲み物、そして歌を歌うことで、司祭をもてなしていたという背景がある。

 

実は、日本でいう「お気持ちで…。」というような、金銭のやりとりもある。
いくら包むのが適当かという問題は、日本に限らずポーランドにも存在しているようだ。

三つのコレンダ

コレンダをポーランド語辞典で調べると、クリスマス聖歌…つまりクリスマスキャロルと訳されている。面白いことに、コレンダという言葉には三つの事象が含まれているのだ。

 

一つ目は「司祭の儀礼的訪問」、二つ目は「クリスマスキャロル」、そして三つ目は「聖書にまつわる演劇」だ。

 

一つ目については「Wizyta duszpasterska – ヴィヅィタ ドゥシュパステルスカ」と呼ばれることもあり、二つ目のクリスマスキャロルは想像の通りである。

 

問題は「聖書にまつわる演劇」であるが、ルームメイトによると、学校などのいくつかの子供達のグループによってそれらは演じられることが多い。
子供達はそれぞれ「羊飼い」や「天使」など、聖書にまつわるあらゆる役柄へと扮し、司祭と同じように一つ一つ家庭をめぐる。
そこで、聖書の物語を演じると同時に、クリスマスキャロルを歌うのだという。

コレンダの最後には

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儀式の最後に、司祭からちょっとしたプレゼントを頂いた。
本来クリスチャンが貰えるのは右のカードであり、私が信者で無いことを告げると、司祭が左のしおりを渡してくれた。

逆に、信者じゃ無いとそのカードは貰えないのか…と、ちょっと落胆したわけだが、ハウスメイトがカードを譲ってくれたので、右のカードも手元にある。
別に、いらないからカードを譲ってくれたわけではない。 たぶん。

 

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カードの裏には司祭の名前と赤い十字が手書きで印されている。
司祭はこれを一枚一枚手書きし、この時期になると家を一戸一戸巡っているのか…。
と、司祭の献身と苦労に頭が上がらない筆者であった。

 

さて、これにて「新春!司祭の突撃家庭訪問編」は終了である。

 

次回の更新を待たれよ。

 

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PROFILE

ナカイ レイミ

東京芸術大学修士課程在籍。好きが高じて斜めに走る。「ゆるゆるポーランド滞在記」連載中

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