この連載は、東欧の現地事情をニュージェネレーションの声と共にお届けする、ゆるゆるポーランド滞在記である…のだが、訳あって、筆者は改めて部屋を探している。
家を無くして路頭に迷っているわけではないのだが、ルームメイトがあまりのクソ物件に怒髪天をついたわけである。
だが何度内見をしても、条件どころか驚くべき物件にしか出会えず、ツッコミスキルだけが上がっていく始末。
おかしい。私は無機物と漫才をする技術を習得しにポーランドに渡欧したわけではないのだが…。
折角なので、これらの経験の供養と厄落としも含めて、ポーランドの不動産についてゆるゆると書こうと思う。
すでに我が家がクソ物件
築何年というデータはわからないが、とにかく古いということが入居してすぐにわかった。
とりあえずドアというドアが全てぶっ壊れている。
自室のドアは、もはやどのようにドアノブがくっついているのかさえわからない。
ネジのないネジ穴は、ただの穴でしかない。
部屋の鍵は“あきらかに一度ぶち壊れたので付け直した”感が否めないが、幸いまだ正常だ。
思えばポーランドで初めての夜を明かしたホテルのドアもネジがなかった。
結論、これまでの滞在を振り返ると、ポーランドで出会ったドアの半数はぶち壊れていた。
ある時は自動回転ドアまで壊れていたので、もはやドアは壊れている物だという認識さえ生まれ始めてきた。
ポジティブに語るならば、ただ生活をしているだけで、個性豊かでウィットに富んだドアと日々出会うことが出来る。
だが、問題は別にある。
今回の物件探し、始まりはキッチンのゴキブリ騒動であった。
ハウスメイトのSAN値はゼロ
ポーランドのゴキブリは小さく、日本のように日常的に見られるものではない。つまり、家屋の中にゴキブリが出れば、その家はヤバいのである。
それだからなのか、かつて入居していたドミトリーのポーランド人達は、作った料理が入った鍋やフライパンを、蓋をせずにそのままキッチンに放置しがちだった。
日本で一人暮らしをしていた際に、ゴキブリに対する警戒心MAXで生活をしていた筆者からすれば、そのような自殺行為はもってのほかだ。
注意をしても改善されることがないところをみると、作った料理をそのまま放置するのは、当たり前の習慣なのかもしれない。
しかし、ポーランドの映像作家、カロリナ・ブレグワ(Karolina Breguła)の「THE TOWER(WIEŻA)」のワンシーンでは、「隣人はゴキブリが混入したスープを飲んで病気になったわ。」というセリフがあったので、ポーランド人自身もネタにしがちである。
さて、実は初日からゴキブリを目撃し、あまりに小さく可愛げのある奴だったので黙認してた筆者であるが、ハウスメイト達が次々にゴキブリを目撃し発狂を始める。
ついには「ゴキブリを殺したらカウントするリスト」が作られ、部屋全体をバルサンしようという大騒動へと発展した。
筆者はゴキブリとの共存を選択したので、キルレートが低い。
クソ物件に潜在するアンチノミー
だが、ポーランドの建物には日本の家屋と比べて圧倒的優位な点ある。
それは、どこも居ても暖かく、堅牢性が強いということだ。
暖房がどの部屋にも、それこそトイレやバスルームにも備え付けられており、どれだけ古く、クソ物件を極めていようと、暖かさだけは欠かさない。
乾燥はあるものの、日本のジメッ…としたカビ臭のある家に比べれば、清潔感があり、窓も気密性が高く、広々としている。
どれだけ屋外で風が吹こうと、霰が降ろうと、びくともしない家屋の強さが、絶対的な安心感を生んでいるのだ。
国の国民性を皮肉ったエスニックジョークの一つに「この世で最も不幸な男は、中国の服を着て、イギリスの料理を食べ、日本の家に住む男だ。」というブラック極まりないジョークがあるが、日本を離れて生活をすればするほど、日本の家屋の“脆さ”に気づいてしまうのだから、笑うしかない。
日本とポーランドの物件を比べて、どちらに帰りたいかと問われたら、筆者は間違いなくポーランドの物件を選ぶ。
さて、思うにポーランドのクソ物件のアンチノミーはここにある。
ポーランドの家屋は堅牢で壊れにくいからこそ、長く人を住まわせる事が出来るため、消耗品であるドアや家具などが、先に老朽化してしまうのだ。
結果、出会うドアは全て壊れ、ネジは失くなり、鍵は幾度となく交換を余儀なくされる。
クソ物件の二律背反は、こうやって形作られるのだ。
あっちもこっちもクソ物件
このコラムを書いている現在、Twitter界隈では「クソ物件オブザイヤー」というタグで盛り上がっているようだが、ポーランド側からみればどの物件も四天王の中でも最弱レベルの物件である。
そこで、最後に筆者が遭遇した「クソ物件オブザイヤー in ポーランド」を二つ紹介しよう。
間取り図の記号は、ベッドとドア以外を省略したのでご了承いただきたい。
物件:その一「通過します。」
こちらを見ていただきたい。
おわかりいただけたであろうか。
奥の部屋はシングルで、手前の部屋はダブルである。
奥の部屋の住人は、ダブルの部屋を通過しなければ、キッチンにもトイレにも行けない。
運良くハウスメイトと意気投合できたとしても、他人に毎日部屋を通過されなければならないダブルの住人は、さぞかし居心地が悪いことであろう。
さらにこの時、シングルの部屋は契約済みで、ダブルの入居者を募集していた。
むしろトリプルで売り出せと言わんばかりのクソ物件である。
ちなみに、古い建築構造になればなるほど、このタイプの物件が増えてくるらしい。
物件:その二「広義的に言えば部屋。」
古いが大きいアパートの一室を、シェアハウスとして売り出している物件があった。
残念ながら古すぎて水場のカビが健康を害するレベルだったので、契約を諦めようと友人と相談をしていた時であった。
大家が一つの扉を指差している。
どうみても物置だが、ここは窓がない部屋で…と、面白がって説明をしてくれた。
つまりこういうことらしい。
これは物置に無理やりベッドを詰め込み、便宜上部屋と呼んでいるに過ぎないのではないだろうか。
笑って説明をするあたり、大家がノリで作った部屋が本当に入居されちゃった感が否めない物件である。
言わずもがな契約済みであった。逆に一ヶ月ぐらい住みたい。
さて、これにて「クソ物件オブザイヤー in ポーランド編」は終了である。
次回の更新をまたれよ。
・連載記事
・死者の日だってウェイしたい!〜ゆるゆるポーランド滞在記その1
・死者の日だってウェイしたい!〜ゆるゆるポーランド滞在記その2
・死者の日だってウェイしたい!〜ゆるゆるポーランド滞在記その3
・ゆるゆるポーランド滞在記:特別編①「知られざるシロンスクの歴史」