ベストセラー小説って、意外と読んでいなかったりしませんか?
それも古典や名著とされるものだとなおのこと。
「あの名作、読んでみたいなあ……」
なんて思いつつも、いつも書店の棚で眺めるだけ。
いざ手に取ってみても、「退屈だ……」となって読むのがシンドくなること、よくありますよね。
それでも古典を読んでおいて損はありませんし、将来的に得になることの方が多いんです。
連綿と読まれつづけてきた書物には、普遍性があり、それを読むことは、人類の歴史を知ることに直結します。
そこで今回は「古典を読む意義」と「この200年間でもっとも売れた小説ベスト15」をまとめてみました。
古典を読むことは、スルメをかじるようなもの
文豪ゲーテは、「古典を読むことは、相場を知ることだ」と説いています。
お金には、金貨もあれば、銀貨もあり、紙幣もある。みんなそれぞれ価値もあれば、相場もある。しかし、それぞれを評価するためには、相場を知らなければだめだ。文学といえども、同じことだ。君は硬貨を評価することはできようが、紙幣は評価できないだろう」(『ゲーテとの対話』)
つまり、「文学の流れ(相場)を知るには、古典を読むしかないよね」と言っているわけです。
また古典は若い時期に読んでおいた方が得が多い。
知識・経験量は少ないかもしれませんが、体力と時間だけはたくさんありますよね。
なにより10年後、20年後と再読することができます。
すると、あの時しっくりこなかった作品でも、身体中に激震が走るほどの感動を得られることが、往々にして起るのです。
再三になりますが、古典を読むのは正直「退屈」です。
ガムのようすぐ味が出るわけではありません。
そこで、古典とはスルメだと考えてみましょう。
スルメは最初、固くて美味しくありませんが、噛めば噛むほど味が出てきます。
古典もそれと同じ。
最初は読むのに骨が折れるかもしれないけども、読み切ったあとには、深い滋養を与えてくれるのです。
ガムみたいにすぐ味が消えることもありません。
古典とはすなわち、
「一度読めこなしてしまえば生涯に渡って味が続き、また栄養となってくれるもの」
なのです。
この200年で最も売れた小説ベスト15
古典文学といえど、それこそ古代からあるよう、枚挙に暇がありません。
ですので今回は、近代小説が誕生したこの200年をスパンにして、そこから最も売れた小説ベスト15をランキング形式で記してみたいと思います。
なおベスト15といっても、売上部数が重なるのもあるので、実際はそれよりも多くなります。
以下の注意書きのもと、ランキングを作成しました。
※統計期間 1817年~2017年
※シリーズもの各巻単独として扱います。
※絵本、エッセイは除外します。
※邦訳されているものに限ります。
※同部数は同順位とします。
※順位は出典元を参考にした本サイト調べによるものです。
それではをどうぞ!
15位(4,000万部台)〜13位(5,000万部)
表記方法
順位 タイトル
著者/言語/発表年/部数/出典
15位 『アラバマ物語』
ハーパー・リー/英語/1960年/4,000万部/出典
・あらすじ
黒人による暴行事件の裁判において、加害者青年を弁護するアティカス。
陪審員は偏見にまみれた白人ばかり。さあどうなる……!?
公民権運動が盛り上がりをみせていた時代、最も読まれた本です。
ハーパー・リーは、本作でピューリッツァー賞を受賞。
映画があまりに有名ですが、原作はもっと重い感じ。
邦訳版を出している出版社は意外にも、暮しの手帖社。
15位 『屋根裏部屋の花たち』
V.C. アンドリュース/英語/1979年/4,000万部/出典
・あらすじ
幸福な毎日をおくっていた少女とその一家が、父親の死をきっかけに不幸のどん底に陥ってしまう……
ゴシックロマン鬱小説とでも言ったら良いんですかね、これは……
こんなに売れていたとは驚きです。
1987年と2014年に映画化されているので、救いようのない気分に浸りたい方はぜひ。
15位『ソフィーの世界』
ヨースタイン・ゴルデル/ノルウェー語/1991年/4,000万部/出典
・あらすじ
14歳の少女ソフィーが、謎の人物アルベルトと哲学的な対話をして、世界と自分について考える……
プラトンの「対話篇」を現代風にアレンジした作り、とでも言いましょうか、西洋哲学の「いろは」がすべて詰まっています。
作者のゴルデルは哲学担当の高校教師でした。
なので、難しいことを分かりやすく表現しており、哲学を知らない人でも楽しめるよう最大限の工夫がなされています。
「哲学を学びたい!」という人ならば、まずはこの本から。
14位 『かもめのジョナサン』
リチャード・バック/英語/1970/4,400万部/出典
・あらすじ
群れをはなれて自由を求め、己の限界突破をめざす「かもめ」ジョナサンのお話。
文庫にして200ページも無いのに、深い深い何かが描かれています。
「自由」や「精神世界」なんていうのがモチーフなので、当時たくさんいたヒッピーの愛読書にもなりました。
五木寛之による翻訳版も、新潮文庫の売上トップランキングに入っていますね。
13位『快傑ゾロ』
ジョンストン・マッカレー/英語/1924年/5,000万部/出典
・あらすじ
覆面騎士ゾロが、悪党どもを倒す話。
典型的な勧善懲悪モノ&ヒーロモノですね。
作品発表以来、映画化、マンガ化、アニメ化、ゲーム化……とメディアミックスの嚆矢といえる作品。
児童書『かいけつゾロリ』シリーズの元ネタでもあります。
13位『ベン・ハー』
ルー・ウォーレス/英語/1880年/5,000万部/出典
・あらすじ
ユダヤの貴公子ベン・ハーの復讐劇と、イエス・キリストの生涯が交差する!
アカデミー賞11部門受賞という1959年の映画があまりに有名すぎて、原作はかなり影が薄いです。
「そもそも、原作あったの!?」なんて声も。
実際、邦訳は絶版になっているようだし、電子書籍化すらされてません。
著者ルー・ウォーレスは多才な人でした。
作家だけでなく、弁護士や州知事、そして南北戦争時の北軍将軍も務めたのです。
ウォーレスの人生の方が、ベン・ハー以上にドラマチックだったり?
13位 『ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち』
リチャード・アダムス/英語/1972年/5,000万部/出典
・あらすじ
恐ろしい敵がやってくるので冒険の旅に出る野ウサギ11匹たちの英雄伝!
……と軽々しく言いたいところですが、生々しい描写の連続で、「生きることはなにか?」を突き詰められるような、ある種の人生訓。
児童文学の形式をとってはいますが、ディストピアが描かれるその世界観はあまりに重く、国家論や外交論として読むことも可能。
1973年にカーネギー賞とガーディアン賞を同時受賞。
1979年にはアニメ映画化されましたが、その「野生(=現実)の厳しさ」を見て、トラウマになった人も多いとか。
13位『鷲は舞い降りた』
ジャック・ヒギンズ/英語/1975年/5,000万部/出典
・あらすじ
時は第2次大戦末期。ナチス・ドイツ空軍中佐クルト・シュタイナは英国首相ウィンストン・チャーチルを「拉致せよ」との命令を受け、行動に出るが……
タイトルを変えるなら、「チャーチルを捕獲せよ!」ですかね。
鷲(ワシ)が意味するのはもちろん、ナチス・ドイツの紋章とその落下傘部隊のこと。
この鷲(アドラー)は「力・無敵」を象徴するものとして、ナチス時代だけでなく、ドイツ帝国やプロイセン王国、さらには古代ローマ帝国時代から使われていました。
今でもドイツの国章には、マッチョな黒鷲が描かれていますね。
ちなみに作者のジャック・ヒギンズはイギリス人です。
1929年生まれで現在(2017年)も存命中。
続編に『鷲は飛び立った』があります。
13位『薔薇の名前』
ウンベルト・エーコ/イタリア語/1980年/5,000万部/出典
・あらすじ
中世イタリアの修道院で怪奇な連続殺人事件が発生。2人の修道士が事件の解明していくが……
昨年(2016)亡くなってしまった知の巨匠、エーコによる長編。
あらすじだけ見ると単なる推理小説に思えますが、中身は哲学と歴史と記号学が絶妙に混ざった、かなり難解なお話。
ですが、1986年の映画化も相まって、大変なベストセラーになったのです。
エーコは多才な人で、記号論、哲学、文芸評論、聖書学、そして作家といくつもの顔を持っていました。
「理論家」と「作家」、という実は相容れない二足のわらじを履いて、世界的に大成功を収めた稀有な人物。
本作発表以降、ノーベル文学賞候補と目されていました。
84歳だったとはいえ、亡くなったのは残念でしたね。
13位『黒馬物語』
アンナ・シュウエル/英語/1877年/5000万部/出典
・あらすじ
主人公の馬・ブラック・ビューティーが、数々の苦難を乗り越え、成長していく物語。
「馬の自叙伝」とは小説ならではの手法。
そして立派なビルドゥングス・ロマン(教養小説)。
また、作者シュウエルの遺作にして生前唯一の作品です。
足が不自由だったシュウエルは常に馬車を利用していました。
そのため、馬への愛着は人一倍強かった。
それが昇華されたのが、この『黒馬物語』なのです。
競馬はじめ馬が好きな人、19世紀のイギリス風景を知りたい人にオススメ。
13位『赤毛のアン』
L・M・モンゴメリ/英語/1908年/5000万部/出典
・あらすじ
両親が死んでしまい孤児になった少女アンは、ひょんなことから老いた兄妹の元へ。多くの困難に見舞わせながらも、アンは大人へと成長していく……
『赤毛のアン』シリーズの第1作。
このシリーズ、9作品+外伝的短編2作もあるのです。
日本では、高畑勲監督による『赤毛のアン』があまりに有名です。
13位『アルプスの少女ハイジ』
ヨハンナ・シュピリ/ドイツ語/1880年/5000万部/出典
・あらすじ
両親が亡くなり5歳まで叔母に育てられていた少女ハイジが、アルムの山で、おじいさんや少年ペーター、ヤギのユキちゃんらと大自然で生きていくお話。
こちらも高畑・宮﨑駿らによる「世界名作劇場」の知名度があまりに高い児童文学の金字塔。
アニメのイメージとは一転して、キリスト教色が強く、なによりペーターの一家の貧しさや、アルムおんじの過去があまりに重い……
それでも、大自然の描写が「これでもかっ!」というぐらい秀逸でアニメに負けていません。
原作は未読、という方にこそ読んで頂きたいです!
13位『ロリータ』
ウラジミール・ナボコフ/英語/1955/5000万部/出典
・あらすじ
大学教授であるハンバート・ハンバートが、12歳の少女ドローレス・ヘイズ(愛称ロリータ)に恋してしまう話。
アン、ハイジと来て『ロリータ』か……と思った方もいるでしょうが、イメージするほどアレではありません。
むしろ誤解されすぎというか、よくできた「片思いモノ」+「ロード・ノベル」だと個人的には思います。
文庫で600ページもあり、また「文字の塊」といってよいほど改行が少ないので、読みこなすのはやや時間がかかりますが、読了すると、「ああ、なるほど!」となぜか膝を打ちたくなりますよ。
新潮文庫の解説は大江健三郎が書いているように、現代文学にも大きな影響を及ぼしました。
「ロリコン」や「ゴスロリ」の語源になっただけではないのです!
13位『百年の孤独』
ガルシア=マルケス/スペイン語/1967年/5,000万部/出典
・あらすじ
マコンドという村が生まれ、栄え、衰退し、そして廃墟になるまでの百年間を描くお話。
この作品ほど、あらすじが書きにくいものはありません。
いくつもの挿話が随所にあり、ひと言で表すのがそもそも不可能。
しかし読み終わった時には、それらがキレイに繋がったような快感というか浮遊感に包まれるのです。
「魔術的リアリズム(マジック・リアリズム)」という手法を駆使してラテンアメリカ文学を牽引、そしてノーベル文学賞受賞作にもなった20世紀を代表する1冊。
著者ガルシア=マルケスいわく、「ソーセージのように売れた」とのこと。
映画化など、メディアミックスなしでここまで売れた作品は稀ですね。
作品とはべつにひとつ不満を言うならば、相変わらず値段が高いこと。
新潮社さんには、早期の文庫化および電子書籍化を願います。
12位(6,000万部)〜11位(6,500万部)
12位『海底二万里』
ジュール・ヴェルヌ/フランス語/1870年/6,000万部/出典
・あらすじ
大西洋に謎の巨大生物襲来!その正体をつかむため、生物学者アロナクス教授と助手コンセイユは新型潜水艦ノーチラス号に乗って冒険の旅に出る!
SFの父ことヴェルヌが描いた傑作冒険劇。
「未知との遭遇モノ」というか、謎の生物と対峙するお話のファクターは、本作品にすべて詰まっています。
また庵野秀明監督による『ふしぎの海のナディア』の原案にもなりました。
『ナディア』だけでなく、『エヴァンゲリオン』や『シン・ゴジラ』を深く楽しみたいならば必読!
12位『シャーロック・ホームズの冒険』
コナン・ドイル/英語/1887年/6,000万部/出典
・あらすじ
名探偵シャーロック・ホームズが怪奇事件を次々と解決。なお語り手はホームズではなく、友人で伝記作家のワトスン君なのだよ。
推理小説の金字塔にしてシリーズ第1作目。
意外と読んでない人が多かったり?
本作品の「語り手の視点」に注目です。
上記にも書きましたが、『シャーロック・ホームズ』とは1から10までワトスンの視点で語られています。
だから、基本的にワトスンの視点を通してのみ、ホームズの言動と思考推理が読める。
なのでより謎を解決するホームズ自身が1番の謎に見えてきたり……
そういった構造で一番近いのは、谷川流の『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズかな、と思ったりします。
12位『マディソン郡の橋』
ロバート・ジェームズ・ウォラー/英語/1992年/6,000万部/出典
・あらすじ
イタリアからアメリカにやってきたフランスチェスカが、写真家ロバートと恋に落ちる……というか不倫をするお話。
ここまで売れていたとは驚きです。
映画、ミュージカル、演劇化とメディアミックスの効果が大きいのでしょうか。
なお、作者のウォラーは今年(2017年)に亡くなりました。
作家業をやる前は、経済学の教授だったとのこと。
11位『ライ麦畑でつかまえて(キャッチャー・イン・ザ・ライ)』
J・D・サリンジャー/英語/1951年/6,500万部/出典
・あらすじ
名門高校を退学させられた主人公ホールデン・コールフィールドが、クリスマスのニューヨークを旅するお話。
ジョン・レノンを撃ったマーク・チャップマンも、レーガン暗殺を企てたジョン・ヒンクリーも愛読していた、いわく付きの大ベストセラー。
今で言う「中二病」を患っている方々に大ウケしました。
ただ、現代の感覚で読んでシンクロできるかというと、正直ビミョー。
尾崎豊やブルーハーツがあって、なにより女医伊集院光による「中二病」概念が浸透した今では、「はいはい、わかった、わかった」と鼻で笑いたくなるというか。
ですが、一時代を築き、多くの人に影響を与えたのは事実。
翻訳は野崎孝と村上春樹のやつが代表的ですが、野崎訳はやはり古いです。
「分かるだろ? 奴(やっこ)さん」なんて言い方、どこの10代がするのでしょう。
もっとも春樹訳も、完全に春樹化しているのでクセはありますが。
11位 『アルケミスト – 夢を旅した少年』
パウロ・コエーリョ/ポルトガル語/1988年/6,500万部/出典
羊飼いの少年が宝物を探すために、エジプトのピラミッドを目指すお話。
典型的な冒険劇ですね。
著者パウロ・コエーリョの実体験がモチーフになっているようで、ブラジルで最も売れた小説だそうです。
現代ラテンアメリカ文学の旗手であり、ノーベル文学賞候補とも目されているので、ニワカになりたくなければ今のうちに!
・以下、『ハリー・ポッター』シリーズが同列に続くので、ひとまとめにします。
11位 『ハリー・ポッターと死の秘宝』
J.Kローリング/英語/2007年/6,500万部/出典
11位 『ハリー・ポッターと謎のプリンス』
J.Kローリング/英語/2005/6,500万部/出典
11位 『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』
J.Kローリング/英語/2003/6,500万部/出典
11位 『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』
J.Kローリング/英語/2000/6,500万部/出典
11位 『ハリーポッターとアズカバンの囚人』
J.Kローリング/英語/1999/6,500万部/出典
さすが21世紀最大のコンテンツ『ハリー・ポッター』!
すべての巻を合計したら、それこそとんでもない数字が出るでしょう。
上記にあるのはシリーズ中編から後半にかけてです。
初期2作がまだ登場していないですね。
10位以降のどこかにあるんですよ。
長くなってきたので、トップ10は後篇で。
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