スケートボード 路上の言語

ESSAY

『路上の言語』Skateboarding is not a Sport 4

カイヨワは遊びを四つに分類した。スケートボードはそのうちのイリンクス・眩暈に該当する。スケートボードに限らずイリンクスの遊びのスポーツ的な側面を取り上げ、競技として大会を成り立たせる場合がある。

イリンクス

イリンクスとは眩暈の追及である。

それらは、一時的に知覚の安定を破壊し、明晰であるはずの意識をいわば官能的なパニック状態におとしいれようとするものである。すべての場合において、一種の痙攣、失神状態、あるいは茫然自失に達することが問題なのである。それらは、有無を言わせず乱暴に、現実を消滅させてしまう。

引用:ロジェ・カイヨワ『遊びと人間P60

このイリンクスには二つの極があり、ひとつはスイカ割りのようにただ平衡感覚を失いふらふらした状態が楽しいというような子供の遊びと、空中ブランコのように高さのあるスリリングな場所で高い技術やアクロバティックな動作をする際に、危険と隣り合わせにいるようなことが快感を増幅させるようなものの二つだ。スケートボードはこのイリンクスに当てはまる。子供の遊びの部類に当てはまるものはダウンヒルなど。スリリングな場所で高い技術をすることに快感を感じることはステアやハンドレールなどのトリックだ。

このイリンクスに該当する遊びがどれだけ多くの人に楽しまれているかというと、遊園地にあるアトラクションをいくつか取り上げてみればわかることだ。

声をかぎりに叫ぶこと、傾斜を走りおりること、回転すべり台、全速で回転した場合のメリー・ゴー・ラウンド、充分高くあがった場合のぶらんこ、これらは類似の感覚を与える。

引用:ロジェ・カイヨワ『遊びと人間P62

スケートボードをしたことがある人ならわかるだろうが、全速で回転した場合のメリー・ゴー・ラウンドはカービング、充分高くあがった場合のぶらんこはランプに該当する。ランプで上にあがるためにはこがなくてはならないのだが、このこぐ感覚がぶらんこと同じなのだ。ランプが大きくなればなるほどスピードも早くなり、快感も強くなる。

イリンクスの例として出された以下の動作はスケートボードに当てはまるが、引用中にスケートボードの動作を括弧内に書き足してみる。

身体をさまざまに翻弄することで、こうした感覚がひきおこされる。空中ぶらんこ、空間へ身を投げ出すこと(エアー)、あるいは墜落(ステアを飛び降りること)、急速な回転、滑走(プッシュ)、スピード(ダウンヒル)、直線運動の加速(車やバイクにつかまり街を流すことやドロップイン)、あるいはこれと旋回運動との組み合わせ(カービング)といったことがそれだ。

引用:ロジェ・カイヨワ『遊びと人間P62

この『路上の言語』の第一回目

子供が滑り台を楽しむことの延長に大人がジェットコースターを楽しんでいることを考えると、人間が楽しさを感じる動作は年齢によって種類が変わるのではなく動作が与える刺激の程度の問題なのではないだろうか。

と述べたが、回転や滑走、落下などの単純な動作などを求めるのは年齢に関係ないことが先の遊園地の件でわかるだろう。まだ小さな子供が滑り台を極度に怖がることがあるのは、上から下に滑りおりるという動作を経験したことがないからであり、それに慣れていくとジェットコースター程度の刺激の強さにならないと恐怖や快感を感じなくなる。

 

カイヨワはジェットコースターやバイクなど猛スピードで走る際に感じられる疾走感からも同じような快楽が得られるとしているが、スケーターはこのような快感を求め時速60kmで走るバイクやクルマにつかまるという尋常ではないことをするものが大勢いる。これらスピードの刺激に快感を覚えるのはスケーター以外には例えばアルペンスキーヤーなどもいるが彼らだけでなく広く一般のひとが感じるものであり、それはジェットコースターに好んで乗る人が大勢いることからわかる。クルマにつかまるスケーターとジェットコースターに乗るひとが同じような快感を求めるといってもそこには安全面が保障されているかどうかの違いがあり、安全とはいえない状況であってもその快感を優先してしまうところにスケーターのある種破滅的な面がうかがえる。

 

スケートボードの世界でジェットコースターといえばダウンヒルだ。どこまでも加速しスピードが上がっていく。きつい下り坂を滑っていると自分でスケートボードをコントロールできるぎりぎりの状態になる。もしコントロールできなければ転びケガをするが、このギリギリのスピード感が楽しいのだ。下り坂なのでスピードは徐々に上がり減速しなければ加速する一方なので、コントロールできる限界をあっという間に超えてしまうと最悪死ぬ場合がある。

 

恐怖と楽しみがセットになっているものとしてはダウンヒル以外にランプも同じようなものであり、初めてドロップインをするときは恐怖を感じる。リップ(ランプのフチ)にテール(スケートボードの板の後ろ足をかけるところ)をかけRに直接滑りおりるという動作は日常でまったく類似するものがなく、誰もが生まれて初めて経験する恐怖を伴う行為だ。ランプを滑ることと類似するものにはぶらんこが該当すると先ほど述べたが、ぶらんこは身体の軸が地面と垂直になった状態から徐々にRがきつくなるためRに対して軸を合わせることは容易であるしなにより手で掴まる鎖がある。ランプもフラット部分から徐々に上がっていけばRに対して軸を合わせることはできるが、ドロップインのようにRに直接滑りおりることは最初は恐怖がつきまとう。だがそれも慣れていくので恐怖心も薄れぶらんこを楽しむようにRという日常では味わえない特殊な形状を滑ることに楽しみを感じる(トリックをするときに恐怖心を感じることもあるが)。

 

プールを見つけたサーファーもRを滑る快感を味わい、それが伝播し後にプール・スケートという一時代を築くことになるのだ。充分高くあがったぶらんこは頂点より上に行くことはできないが、プールで滑ったサーファーは空中へ飛び出した。

 

ダウンヒルもランプもジェットコースターやぶらんこと類似の動作をするものであることが、スケートボードが世界中の人に楽しまれている理由だと思う。ただしスケートボードには安全の保障はない。にもかかわらずスケーターは破滅的ともいえるほどにこの楽しみを求める。

PROFILE

栗原 啓輔

スケートボード研究家/スケート歴20年 (写真家)

https://twitter.com/kuriharakeisuk

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